「あれ、いつも学校で着てるベストでしょ?可愛いね」
少し寒く感じるようになった晩秋。うちに遊びに来たジュンコが、私の部屋にかけてある白いベストを指さして言った。
「私が編んだものだよ」
私の答えにジュンコは目を丸くして言った。
「え〜小雨ってそんなことも出来る人なの?あなたすごいよね、やっぱ」
「全然すごくなんかないよ。ジュンコの方がずっとすごいよ。自分の道、ちゃんと決めてるんだから」
「私の目の前の扉は2つしかないの。英語とハモンドオルガン。将来的にはどっちも開けるんだろうけど、とりあえずは英語の扉を開いてみるの。小雨はいろんな扉がありすぎて迷っちゃうんじゃない?理数系も美術系も国語系も得意なのに、まだあんな特技まであったなんてさ」
ジュンコは白いベストを見ながら言った。
「私は上の短大の栄養士の学科に進むつもり」
「栄養科ってうちの高校からですら、上に行ける推薦枠20人程度だって言ってたけど」
「推薦はしてもらえるの、八田がそう言ってた。でもテストもあるしね。そこで落とされる人も結構いるんだって。テストで駄目だったりして」
「小雨なら何の問題もなくOKでしょう。学年でもいつもトップに近いところにいるんだし」
「だといいけどね」