雨の街角

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| 2019.08.11 Sunday |
第六章 苦悩 〜ノボルとお兄ちゃん〜

「もしもし、由香?突然だけど、私、この前から吉川君とつきあってるんだ」
電話の主は、純子だった。
「え?吉川君と?」
「うん、あの合コンで意気投合してね。幹事の由香には報告しておこうと思って」
純子は、ノボルと出会った合コンに誘った、高校時代の友達だった。
そしてノボルと吉川君も、高校からの友達だった。由香と純子は別の学校に通っていたが、吉川君とノボルは高校を卒業した後も、同じ学校に通っていた。
ノボルが以前組んでいたバンドの仲間でもあり、ノボルは吉川君のことを親友だと話していた。
コンパの時、ずっとぼんやりしていた由香は、純子と吉川君の様子など、全く見ていなかったので、純子の話には正直驚いた。

「吉川君とノボルくんって仲がいいんだって?今度4人で遊ぼうってことになったんだけど。ダブルデートってやつ?」
純子はそう言って、嬉しそうに由香を誘った。
「純子たちはつき合ってるのかもしれないけど、私とノボルはそんな関係じゃないよ」
そう言って渋る由香に、純子は冷たく言った。
「由香、まだお兄ちゃんのこと引きずってるの?もう、彼のことは、いい加減あきらめた方がいいって。ほとんど会ってないんでしょ?連絡もあまりないって言ってたし。つきあってるのなら、普通あり得ないよ、そんなの。冷静に考えてみなよ」

お兄ちゃんと会わなくなってどれだけ経っただろう…
「もう他に女が出来たんだよ、きっと。由香だって薄々そう思ってるんじゃないの?」
純子はたたみかけるように言った。
彼女は、お兄ちゃんから連絡がなくなってきた頃、心配して遊びに誘ってくれていた友達だった。だから、由香とお兄ちゃんとの経緯をだいたい知っていた。
その純子がここまで言うのだ。いや、純子が言う前から、由香も心のどこかで思ってはいた。
彼から連絡がないのは、バイトが忙しい、ということだけが原因じゃないのでは?と。
純子が言うように、他に女が出来たのかもしれない。そうじゃなかったとしても、自分に対する興味が薄れたことだけは確かだろう。
あれだけ頻繁に連絡があったのに、急に途絶えてしまったのは、明らかにおかしい。

数日後、純子の提案通り、ノボルと吉川君と純子、そして由香の4人で飲み会をやることになった。
ノボルと吉川君はバンドを組んでいただけあってとても歌が上手く、飲み会の後に行ったカラオケは、大いに盛り上がった。
ほんの少しだけ、由香は現実を忘れられた。

純子たちも交えて4人の時もあったが、由香はそれからもほぼ毎週ノボルと会っていた。
ノボルは、どこかしらお兄ちゃんに似ていた。女の子のように可愛い外観や、車よりもバイクが好きなこと、モテるだろうと思うのに、イマイチ女の子に馴れていないところ…
出会いからして似ていた。誘われて嫌々行った場所にいたこと、興味のない由香にしきりに話しかけてきたこと。
悪いとは思いながらも、由香はノボルとお兄ちゃんを重ね合わせていた。



〜吉川君〜

ノボルと出会った時に彼が話していたが、彼らが組んでいたのはヘヴィメタバンドだったので、メンバーはほぼ長い髪をしていたらしい。ノボルは高校を卒業した頃には短い髪にしたが、吉川君はずっと自慢の髪を切ることはなく、ロングヘアの純子と並んで歩くと後ろ姿はどちらとも女の子のように見えるほどだった。
そしてノボルも吉川君も女の子のように可愛い顔をしていた。丸顔でくりくりした瞳のノボルは渡辺美里、細面で笑うと少し目尻が下がる吉川君は浜田麻里に似てるとよく言われていた。確かに似ていた(笑)
純子と吉川君はしばらくつきあっていたが、他に好きな人が出来たと純子の方から別れを切り出した。ノボルは吉川君が、純子から返された指輪を海に棄てに行くのにつきあわされたらしく、海に向かって指輪を放り投げ「純子の馬鹿野郎〜〜!」と叫んでいたと苦笑いで話してくれた。

その後大学を卒業し、自動車ディーラーに就職した私。そこでは毎年、本社近くの研修センターで1週間泊まり込み研修があった。その研修には全国のディーラーから男女共で200人くらい集まってきて研修や交流会をするのだった。
宿泊場所や研修の教室、内容は男女で違うのだが、食堂は同じ場所だった。2日目の夜の食堂で私は刺さるような視線を感じた。見つめる視線の相手をじっと見て私は驚きのあまり立ち上がって叫んだ。
「吉川君!!」「やっぱり由香ちゃんだった。元気?」
そう、私たちは数年後研修センターでそんな再会することになったのだった。
吉川君の実家は自動車工場をしていて、彼はそこを継ぐための武者修行としてディーラーに就職したらしく、それが私と同じメーカーだった。彼は自慢の長い髪をばっさり切っていたのですぐには分からなかったが、短い髪の吉川君はとても男前だった。

男女別の宿泊室はお互い行き来してはいけないことになっていたのだが、私たちは夜な夜なお互いの部屋を行き来して語り合った(笑)
話の内容はほとんどがあの頃の思い出と現在のノボルと純子の話だった。結局私はその後ノボルとは会わなくなるのだけど、ノボルは相当落ち込んでしばらく学校も休んでいたと聞かされた。あれから随分経っていたのに以来彼女も作っていないと。
私は吉川君に純子は学校を卒業したあと、家で子供たちにハモンドオルガンを教えながら英語教室の先生もしていると話した。そして吉川君と別れる原因となった彼とはもう終わったことも話した。

研修が終わり、帰りの電車に乗り込もうとする私に吉川君は大声で叫んだ。
「由香ちゃーん、忘れるなよー!もう会えなかったとしても俺とノボルはいくつになっても、ずっと由香ちゃんと純子のこと遠くから見守ってるからなー」
クサイ台詞を大声で叫ぶところは全く変わっていなかった(笑)でもそんな彼の叫びに私は大きく頷きながら手を振って電車に乗った。
吉川君に会ったのはあれが最後だった。


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| 2017.10.15 Sunday |
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