雨の街角

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| 2019.08.11 Sunday |
第六章 苦悩 〜少しずつ動き始めた心の時計〜

「由香ちゃん、つきあってる人いるんでしょ?なのに、どうしてそんなに元気ないの?」
というノボルの言葉に、由香はポツリポツリと話し始めた。
つきあって半年。彼はバイトが忙しくなって、なかなか連絡をくれなくなったこと。寂しさをまぎらせるために、努力はしてみたけど、何をしても駄目だったこと。
それでも、彼をずっと待ってること。
「そっか、それは寂しいね。つきあってるのに片思いか」
「あなた、上手いこというね」
由香はちょっと笑ってみせたけど、ノボルは笑っていなかった。
「よし、じゃあ、俺がピンチヒッターっていうのはどう?」
「え?何?どういうこと?」
「その会えない彼氏の代わりを、俺がするって言ってるんだよ。何を言ってくれてもいいよ。行きたいところがあったら、どこにだって連れて行ってあげるし、したいことがあれば、何だってつきあう」
ノボルはキラキラした目で言った。
「ごめん、そういうのはちょっと…彼の代わりはどこにもいないから。私は彼じゃないと駄目なの」
由香は下を向いた。
今の自分の心と、ノボルの輝く瞳は、あまりにも対照的で、由香には彼の瞳が痛かった。

「そう…だよね。分かった。ごめん。確かに彼の代わりは俺には出来ないよね」
ノボルはしばらく黙った。あきらめてくれたかな?と思った時だった。
「じゃ、友達と遊びに行くって思ってよ?もしそれさえ嫌になったのなら、はっきりと嫌だって言ってくれればいいから。一人きりで寂しく家にこもってるだけじゃ身体に悪いって。ね?そうしようよ」
乗り気はしなかった。でも、このノボルの強引な、要求に近い提案を蹴散らす元気が、今の由香にはなかった。
「じゃ、友達としてね。私は、電話が好きじゃないし私からかけることは絶対にない。友達関係も、かなり頑張ってくれないと成立しないほどの不精者だよ。それでもいいの?」
「もちろん、それでいいよ。ありがとう。俺のことはノボルって呼んで。俺も克己が呼んでいたみたいに、由香って呼んでいい?」
ノボルはとても嬉しそうにはしゃいでいた。

それ以来、ノボルは日曜日になると朝からやってきて、いろんなところに遊びに連れて行ってくれた。
時には、たった5分話すだけのために、片道3時間をかけて来てくれた。
「1時間電話で話すよりも5分でも顔を見て話せる方がいい」
と、ノボルは笑った。
ノボルの家は、由香の家と片道70キロ離れていた。おまけに二人の家を行き来するには、片道1車線しかない狭い国道しかなく、もちろん、高速道路が走っている訳でもなく、渋滞してしまうと片道5時間近くかかることもあった。
それでもノボルは、朝暗いうちから車を飛ばして来てくれた。

不思議なことに、止っていた由香の心の時計は、それから少しずつ確実に動き始めていた。お兄ちゃんだけだった心は、他のことを考える余裕を持つことが出来た。
でもそれは、決してノボルを好きになるということではなかった。

友達としての興味しか持たない由香に、ノボルはとても優しかった。
由香と会う時間が減るから、とノボルはボーリング場のバイトを辞めてしまった。
「そんなことしたら困る」
と、何度も言ったのだが、彼は聞かなかった。
やはり、始めの印象通り、かなり強引な人だった。



〜大物かとんでもない者〜

ノボルが住んでいたのは奈良県の桜井市というところだった。
桜井市がどの辺りかというと、京都市から南に下がって宇治市、城陽市、京田辺市、木津川市、そして奈良県に入り奈良市、大和郡山市、天理市があり桜井市はその南にある。千本桜で有名な吉野山や和歌山県の橋本市ももうすぐそこだ。あの頃は京奈和道路もなかったので、彼の家に行くには国道24号線をただひたすら南下するしかルートがなくそれはいつも渋滞していた。夕焼けの写真はそんな渋滞の24号線からノボルとよく見た山城大橋の風景。


彼の家は駅前にある商店街の中にあり2階の彼の部屋の窓を開けると手が届くくらいのところに電車の線路が通っていた。それほど本数が多くはなかったが、時折電車が通ると会話が出来ないどころか部屋には震度3程度の揺れが起こる。
(上の小さい写真3枚の説明をすると、左写真の右側に写るシャッターの閉まったところがノボルの家。真ん中の写真の中心部にある白い家の庇があるのがノボルの部屋でその左が電車の線路、昔はあの防音壁はなかった。右写真のボーリングのピンが建っているところがノボルがバイトをしていたボーリング場。場所特定出来ても困るからと加工しすぎてよく分からん写真になったけど…)
部屋に置いていたベットの布団の下に黄色いものが見えることを疑問に思い「あれ、何?」と指を指すとビールケースを並べてそこに布団を敷いて寝ているのだと笑っていた。

思い出せば思い出すほど、彼は「少し変わった人」というイメージしかないが、私の父が歴代つきあってきた私の彼氏(ノボルは彼氏じゃないけど)の中で唯一興味を抱いたのはノボルだけだった。
ノボルは父の会社が忙しい時だけ、臨時のアルバイトとして働いていた頃があった。でもその仕事は朝が早いので奈良から出てくるのは大変だった。だからバイトがあるときは父の会社の仮眠室に泊まっていたのだが、夜になると、毎回父のいる部屋に行き「おじさん、いっぱいやりましょうよ」といってワンカップを2本抱えて入ってくるらしい。
そこで何の話をする訳でもなく、酒を酌み交わすと仮眠室に戻って寝るのだそうだ。
「あんな物怖じしない若者は最近見かけなくなった。あれは将来大物になるか、とんでもない者になるかどっちかだが、あの男はなかなかいい」と私に言ったことを覚えている。
母もノボルのことはよく覚えていて今でも「ノボル君ってどうしてるの?」と時々聞かれる。
自信を持って言えるのは未だに彼はきっと少し変わった人で、人とは一歩離れた生活をしているのではないかということ。
どんな風になっているのか、見てみたい気もするし、想像だけで終わっておく方がいいような気もする(笑)


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| 2017.10.10 Tuesday |
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