雨の街角

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第一章 嫌悪 〜分かり合えるからこそ〜

由香の家は、お兄ちゃんが言うように周りは田んぼや畑だらけの田舎で、帰り道はかなり暗い。消えそうな電灯がまばらに見える程度で、人に出会うこともほとんどない。
そんな暗い道を二人で歩いていたら、遅咲きの桜だろうか、生暖かい風に吹かれて花びらがヒラヒラと舞っているのが見えた。
「まだ、桜、咲いてるんだ…」
由香の言葉に、お兄ちゃんが言った。
「来年の春は満開の桜でも見に行くか、弁当持って」
「うん、いいね」
いつもならそんな言葉に、相づちを打つような由香ではなかったのに、その日は素直にうなずいた。

「知ってる?うちのサークルの男ども、ほとんどがおまえ狙いらしいぞ。そういえばおまえ、テレビのオーディションで最終まで残ったんだって?それを聞いた野郎たち、のんちゃんに土下座するようにおまえを引っ張って来いって頼んでたぞ」
「え?のんちゃんそんな話したの?私、あの番組が好きで高校の時から毎週見てて、ダメ元で応募したら最終まで残ったんだよね。そこで落ちちゃったから番組には出られなかったけど。オーディション風景でほんのちょっとだけ出たんだよ」
「そうなの?俺もよく見てるよ。じゃ、オーディションに受かってたらサークルにも入ってなかったってことだよね?」
「うん、忙しくて無理だっただろうね。あ、そうそう女の子たちは、ほとんどがお兄ちゃん目当てなんだって」
「どうでもいいよな、そんなこと」
「ホントだね」
本当にどうでもいいことだった。
きっと彼の方も、由香と同じように、サークルに恋人を求めていた訳ではなかったのだろう。

「そうだ、言い忘れてたけど、俺の妹の名前、おまえと同じユカなんだよ。うちの妹の字はユカのカの字がにんべんに土二つの佳だけどね」
お兄ちゃんが言った。
「じゃもし私がお兄ちゃんと結婚したら、お兄ちゃんの妹さんと私は同姓同名になるんだ?」
「本当だね。それで、妹と同じ名前のおまえが気になって、初回のサークルの時から機会を狙って、その話しをしようと思っていたのに、ずっと機嫌悪くて。それも他の奴らとは楽しそうに話してるのに、俺が声をかけたら、途端に機嫌が悪くなるから。俺、何で嫌われてるんだろうって悩んでたんだ」
お兄ちゃんは首をすくめ、笑いながら言った。
「ごめんね。だって、お兄ちゃんふざけてばかりでどんな人なのか分からなかったから。私と一緒で、ピエロは演技なのか、それとも、それとも…って考えていたら、なかなか話せなかった。それに、もしお兄ちゃんが私と同じ考えをもった人なら、お互い近寄らない方がいいかもしれないって思ったし」
「なんで?似ているからこそ、分かり合えていいんじゃないの?」
「分かり合えても、駄目なこともあるよ。お互いが分かりすぎて、余計傷つくことってあると思う」
「う〜ん、俺には難しすぎて理解不能だな」
お兄ちゃんは苦笑いだった。

分かり合えるからこそ、ついてしまう傷。
由香はそのとき、何気なくそう言ったけど、そのときはまだ本当にそうなるとは、夢にも思っていなかった。
そして、似たもの同士でつけた傷は、どうしたって消えないということも…




〜オーディション〜

中学、高校はまともに出席しなかった私が、大学を欠席したのはたった2日だけだった。
そのうち1日がテレビ番組のオーディションの日だ。

その番組は、深夜1時くらいからのスタートで終わる時間が決まっていないというちょっと風変わりな番組だった。早ければ3時くらいに終わることもあるし、遅ければ白々と朝が明けてくる頃やっと終わることも。関西でしか放送されなかったのだが、司会がばんばひろふみさんと兵藤ゆきさんと言えばぴんとくる人も多いのでは?
その番組は司会の二人とアナウンサー、そして8人のアシスタントで進行していくものだった。ただのアシスタントではなく、どちらかというとそのアシスタントたちが主役で、いろんな挑戦をさせられていた。
8人のアシスタントは半年ごとに卒業となり、次のアシスタントたちに変わる。その一期生の中には今ではマエノリと呼ばれているモデルの前田典子さんやハイヒールのモモコさんなどもいた。

私が受けた5期生のオーディションは番組史上最高の応募数だったらしく、7,000人近くが応募してきたとディレクターが言っていた。その中から書類選考で200人ほどが選ばれて、テレビ局内で午前中、面接や特技を披露する第2審査が行われ、そこで選ばれた人が午後、コントなどを行う第3審査を受け、残った30人が後日、最終審査を受けることになっていた。最終審査の様子は少しだけテレビでも放送された。
話の中でも書いたように、私は最終審査まで残ったが、8人に残ることは出来なかった。

落ちたことは残念だったが、オーディションを受けて良かったこともあった。
一つはそこで友達が出来たこと。彼女は芸能事務所に所属していて、そのオーディションも事務所からの指示で受けに来たのだと言っていた。その子の話によるとこういうオーディションってほとんどが出来レースなのだそうだ。つまりテレビ局側と事務所の話し合いで誰が受かるかはある程度決まっているのだとか。彼女が「あの子とあの子は出演が決まってるんだよ」と教えてくれた子は確かに受かっていた。「素人で受かる子は余程何かがないと受からないよ」とも。
ちなみに私が友達になった子は、別の番組に出ることがすでに決まってるらしく、翌月から始まったその番組で頑張っていたが、しばらく経って「テレビに出だしたら事務所がいろいろうるさくて嫌になっちゃう。彼氏とは別れろとか人前では煙草は吸うなとか言われるんだよ」と怒って電話してきたと思ったら、そのうち番組に出なくなり、辞めてしまったらしい。

もう一つ良かったことは、私の企画が通ったこと。オーディションの時、その番組に出るようになったらやってみたい企画を提案することになっていたのだが、私が掲げたいくつかの企画が通り、実際テレビで使われた。
まぁ私からすれば、自分が出ないで企画だけ通っても仕方ないのだが(笑)それでも何かで形に残ったのだからいいかと。

他にもテレビの裏側をほんの少し知ることが出来たので、落ちたとはいえ、あのオーディションを受けたことは私にとってプラスだったなと思う。
その番組のエンディング曲は「いちご白書をもう一度」だった。だから私はその歌を聴くとあの時のことをいろいろ引っ張り出してきてしまう。


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| 2017.05.12 Friday |
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