雨の街角

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クリスマス 大学生編
「いらっしゃいませ。彼氏へのプレゼントですか?この色、今年の流行なんですよ」
アパレルショップの男性は美佳にその服を勧めた。私は友達美佳の彼氏へのクリスマスプレゼントを探している途中だった。
「お客様の方は、彼のご趣味はどんな感じですか?体格とかお好きな色とかおっしゃっていただければ、お出ししますよ」
美佳が勧められたセーターを買ったあと、ショップ店員は私にもそう言ってきた。
「うるさいな。そんなのあげる人、私にはいないから!」
私は店員を怒鳴りつけた。
私にはそのとき、美佳のようにプレゼントを選んであげるような恋人がいなかった。いや、恋人はいた。けど忙しいという彼に、もう長く会っていなかった。
私は美佳の手を引いて、店を出た。

「あんな言い方、あなたらしくないよ。じゃ、私、行くね」
美佳はそう言って、待ち合わせをしている彼の元に急いだ。
美佳の背中を見送った後、私は浮かれた色のクリスマスの街を一人歩いた。道行く人みんなが幸せそうで、私一人が不幸を背負っているように思えた。
そんな私の肩を叩く人がいた。ナンパ?と思って睨み付けるように振り返ると、それはさっきの店員だった。
「さっきは失礼なことを言って申し訳ありませんでした。あれ?先ほどのお連れ様は?」
「彼女ならあなたが選んだ服を選んであげた彼のところに行った」
「あ…重ね重ね、ごめんなさい」
あまりに申し訳なさそうに言う彼に私は吹き出してしまった。
「ごめんごめん。私こそ、あなたに八つ当たりすることじゃないのにね」
「あの、お腹空きません?僕、お詫びにおごります。さっきちょうどバイト代入ったんで。さ、行きましょう」
彼は私を連れてタクシーに乗り、しばらく走ったところでタクシーを降りた。
「大学の駐車場に車を置いてるんです。ちょっとここで待っていて下さい」
そういって彼が入っていったのは、驚くべきことに京都大学の門だった。
もっと驚いたのは彼が乗ってきた車は、恋しいのに会えない私の恋人と同じ車だったこと…

彼は親の反対を押し切って地方の田舎から出てきたため、授業料を含め全てを自分で働いてまかなっていると車の中で話してくれた。そんな話を聞きながらも、私は恋人の助手席に乗っている時のことばかり考えていた。同じ車、同じ助手席…
彼がその時、連れて行ってくれたのは、当時とても人気だった山間にあるログハウス風の喫茶店だった。
食後の珈琲が出てきて、私はブラックで飲み干した。
「格好いい、ブラックなんですね、珈琲」
私にはその言葉がとても痛かった。それは私の大好きな恋人が初めて会った日にかけた言葉だった。

喫茶店を出て、彼は家まで私を送ってくれた。
「もし良かったら、また会っていただけませんか?」
「私ね、プレゼントをあげる人はいないって言ったけど、恋人はいるの。彼が忙しくてもう長く会ってないけど」
「あなたさえ良ければ、それでも僕はかまいません。良かったら、いや、是非…無理にとは言いませんが。いや、本当は無理でも…友達として」
何を気に入ってくれたのか、彼はしどろもどろになりながらも一生懸命私を誘ってくれた。
「分かった。ありがとう。けど、あなたの方が年上なんだからその敬語やめない?」
「分かりました。敬語はやめます。それから僕、明日、お店休みなんです。朝10時くらい、ここに迎えに来ていいですか?」
彼は嬉しそうに敬語でそう言った。

その日以来、私たちはデートらしきことを何度かした。
「クリスマスイヴ、一緒に過ごしてくれない?」
彼が私に対して敬語を使わなかった初めての言葉だった。
イヴの前日になっても、待ちかねた本当の恋人からの電話はなかった。

約束のクリスマスイヴの朝、私は起き上がれないほど、体調が悪かった。彼との約束は、昼だったので、それまでに何とか治れば…と思っていたが、全く回復の兆しが見えなかった。
今なら携帯があってすぐに連絡がとれるのだが、当時そんなものなく、おまけに私は自分の家の電話番号をまだ彼に教えていなかった。
私は何とかして彼に行けないことを伝えようと思った。待ち合わせ場所は彼がバイトをしていた服屋が入っているビルの入り口だったので、そのビルに連絡をして呼び出してもらった。しかし、彼とは夜になっても連絡がとれなかった。
痛み止めをかなり飲み、朦朧とした状態で、私は彼を心配した。

翌日、まだ体調が悪い中、私は彼のバイト先へ向かったが、彼はもうその店を辞めていた。

年が明け、正月。ポストを覗くとそこには彼からの年賀状が届いていた。彼が直接ポストに入れたのだろう。住所は書かれていなかった。
『あけましておめでとう。あの日…イヴに君が来なかったことが、僕への答えなのだと思いました。無理してつきあってくれていたのかな?それとも本物の恋人と会えたのかな。もしそうだったら、いいけど。多分違うんだろうな。宝くじには当たらないくせに、こういうつまらない勘だけは当たるので…ごめん、また余計なことを言いました。今年は幸せな年になるといいね。もう会うこともないと思いますがお元気で』
「ごめんね」
私は年賀状に向かってそう呟いた。

クリスマスに近づくたび、私は思い出す。あの時大好きだった恋人に少し似た、同じ車に乗っていた彼のこと。
私はあれから少しして大好きだった恋人とも別れた。


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| 2011.12.25 Sunday |
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