雨の街角

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| 2019.08.11 Sunday |
第五章 幸福 〜嬉しい約束〜

次のサークルについての電話が、のんちゃんから入ってきた。しかし、指定されたその日、由香は用事があって行けなかった。無理だと伝えると
「そっか、じゃ仕方ないね。新井さんの方には私から連絡しておくよ」
と言ってくれたので、のんちゃんに謝って電話を切った。

しばらくして、今度はお兄ちゃんから連絡が入った。
「サークル行かないって、どうして?もしかしたら、俺たちのことが引っかかってるの?もしそうなら、やっぱりみんなに話そうよ。怒られてもいいから、みんなに本当のこと話そう」
お兄ちゃんは少し焦った様子で言った。
「そうじゃないの。学校でね、ラットを飼っていて」
「ラット?ラットってねずみのこと?」
「そう、ねずみ」
大学で解剖用のラットに餌を与える当番があって、サークルの日は、ちょうどその当番に当たっているので、サークルには行けないと由香は笑いながら告げた。
「なんだ、そうだったのか。それなら仕方ないな。じゃ、その代わりに、日曜日、朝からちょっと遠出しようか」
「本当?朝から?朝から会えるんだ?」
由香は、心底喜んだ声で言った。
その声の様子が電話の向こうのお兄ちゃんにも伝わったのか、彼は笑いながら言った。
「おまえ、子供みたいだな。そんなに喜んでもらえたら、俺も嬉しいけど」
そういえばそうだ。今までこんなに嬉しい約束があっただろうか。ただ会えるというだけで、こんなに幸福の絶頂を感じるなんて。
嬉しいとか、悲しいとか、楽しいとか、お兄ちゃんには、そんな今まで持ち合わせたことのない感情をたくさん教えてもらった。
いや、そういう感情はあったのだが、それまではそれを素直に表現することが上手く出来なかった。

日曜になり、待ち合わせの時間に彼はやってきた。
「ね、今日はどこ行くの?」
お兄ちゃんは由香の大好きな街の名前を告げた。
「え!ホント??高校生の頃からよく行ってたの。大好きなところだよ」
「そっか、でも俺はおまえが行きそうな洒落た場所は知らないよ」
「またまた。モテる男は女の子が喜びそうな場所はよくご存じでしょ?」
「あのさ、言っておくけど、俺はそんなにモテないぞ。おまえじゃあるまいし」
「私だってモテませんよ〜」
「もう!減らず口叩かないように、ずっとここにいろ」
そう言ってお兄ちゃんは、由香の頭を腕に抱えて引っ張り、自分の膝に乗せた。
その日から、車に乗った後の由香の指定席はお兄ちゃんの膝の上になった。

お兄ちゃんの膝に頭を乗せ、窓の外を見ると、空と高い建物しか見えず、流れていく車窓はいつも高い位置にあった。
始めはどこを走ってるのか、よく分からなかったけど、馴れてきたら、その高い車窓でだいたいの場所が分かるようにまでなった。
時々、車高の高い車の運転手と目が合って、気まずく下を向いていた。

しかし、上を向いた時見えるお兄ちゃんの笑顔を見るのは由香にとって至福の時間だった。



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| 2017.08.10 Thursday |
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