雨の街角

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| 2019.08.11 Sunday |
第四章 秘密 〜永遠に続く恋心〜

「私ね、バンケットコンパニオンをやってるの。パーティコンパニオンともいうけど。ホテルのパーティではロングドレス着て、お酒作ったり、お酌をしたり、灰皿変えたり、料理を取り分けたり。ホテルの給仕さんと同じような仕事。料亭での宴会の仕事もあって、そっちはスーツ着て。一見さんお断りの料亭での仕事もあるから、普通じゃ入れないところに行けるの。そういうところだと舞妓さんや芸子さんと同じ席で一緒にお酌したり。でも宴会の時はお客さんに勧められたらお酒呑まなきゃならないから、私みたいにお酒呑めない人は困るんだよね。あとね、給料がすごくいいの。パーティって2時間がワンセット。それで5,000円以上。延長依頼されたら30分1,500円。遠くまで行けば出張費もつくの。チーフをやればその手当も出るから、もっと多くなるかな。私がチーフやることもあるんだよ」
由香は悪いことをしている言い訳のように、そのバイトについていろいろ話した。

「へぇ、時給2,500円以上ってこと?俺のバイト料の3倍以上か。そんなに稼いでどうするの?」
「車が欲しいの」
「でも言わば水商売みたいなものだよね?親は知ってるの?そういうバイトしてること」
「うん、知ってるよ。ちゃんと話してる。うちの父親はそういうパーティに出ることも多いし、変な仕事ではないって知ってるから。私が席を置いてる事務所は大手だから父も知ってて使うこともあるって。さすがに鉢合わせしたら気まずいかもしれないけど。それにうちの家は自分が欲しいものは自分で働いて買いなさいっていう教えなの。そういうのもあって、この仕事に反対はしてない。むしろ応援してくれてる」
「ちょっと変わった親御さんだな」
お兄ちゃんは苦笑いだったが、でもそのあとチクリと言った。
「水商売に偏見持ってるわけではないし、それにおまえは、きっとこういうこと言われるのは嫌だろうけど、俺はおまえが化粧して、他の男に愛嬌を振りまいてる姿はあまり見たくないかな」
やはりいい顔はされなかったけど、お兄ちゃんがそう言ったのはその時だけだった。

その後、由香がバイトに行く日は、バイト先のホテルや料亭への送迎をしてくれることもあった。
彼が迎えに来てくれる時は、必死で化粧を落とした。仕事をしていた形跡を消すかのように…
バイトが終わった後のデートは、夜遅かったので、いつも夜景の見える場所へ行った。
夜景を見てしばらくしたら車に戻り、時間の許す限りそこで話したり、何も言わずただ手を握ったままで、お互いのいる感覚を確かめていた。
でも夜の時間は、昼の時間よりずっと早く過ぎていくもので、たいした会話もしないうちに別れの時間になってしまうのが悲しかった。

何度目かの夜のデートの時、お兄ちゃんが聞いた。
「煙草、吸ってもいい?」
「あれ?お兄ちゃん、煙草吸うんだっけ?」
「うん、1日数本だけどね」
「そうだったの。あ、吸ってもいいよ。私も吸う人だから」
由香は鞄から自分の煙草を出して、それを見せながら言った。

その日から由香は、お兄ちゃんと同じ銘柄の煙草に変えた。
彼が運転中、煙草を吸いたそうにしていたら、自分の煙草に火をつけて、それを差し出した。
そうしてしばらく経った頃、お兄ちゃんが言った。
「おまえからこうやって火のついた煙草をもらうの、すごく嬉しいんだよね。いつもと違う味さえするよ」
「違う味って、また毒でも入ってるとか言いたいの?お弁当のときみたいに」
由香が笑いながら、憎まれ口を叩くと
「またそんなこと言って。旨いって言ってるんだよ。もし俺と別れたとしても、他の奴にそうやって火をつけてあげるのはやめてくれよな、絶対。これは俺だけの特権だから」
お兄ちゃんは真剣な顔で言った。
「別れたとしてもなんて言うのはやめて!冗談でも」
由香は少し怒りながら言い返した。

永遠に続く恋心なんて信じてはいなかったけど、別れる時が来るとか、駄目になるのではないだろうかという意識は、出来るだけ遠ざけたかった。

この恋を、大事に大事にしたかった。




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| 2017.08.05 Saturday |
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