雨の街角

| PROFILE | ENTRY | CATEGORY | ARCHIVE | LINK |
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています



ランキングに参加しています。応援して頂けると嬉しいです。 にほんブログ村 写真ブログ 女性カメラマンへ にほんブログ村 写真ブログ 京都風景写真へ



| 2019.08.11 Sunday |
第二章 困惑 〜気にしないように〜

唐突に嘘の告白をして以来、お兄ちゃんからの連絡はなかった。
困っていたのか、避けられていたのか、それは分からなかった。
でも一つだけ言えることは、彼には、由香を好きだという気持ちは、毛頭なかったのだということ。もし、少しでもそんな気持ちがあれば、電話の1本くらいあるはずだ。

そんな思いを抱えたまま半月が過ぎ、次のサークルの日がやってきた。
その日のサークルは、ドライブだった。
車を持っている男性4人が、自らの車を運転して、待ち合わせ場所にやってきた。
ボーリングの時のように、チーム分けがあり、くじ引きで誰がどの車に乗るか編成された。
よりによって、由香はお兄ちゃんの車に乗ることになってしまった。
助手席には伊藤さん、由香と久美ちゃんが後部座席に乗った。

「じゃ、出発するぞ〜」
お兄ちゃんのかけ声で、4台の車は一斉に動き出した。
伊藤さんと久美ちゃんは、これまでのサークルの話や、学校の話でワイワイやっていたのに、お兄ちゃんと由香は静かだった。その光景をおかしいと思ったのか、伊藤さんが言った。
「おい、新井、由香ちゃんも、今日はやけに静かだな。居酒屋の時の元気はどこに行ったんだ?」
「ホント、どうしちゃったの?」
久美ちゃんも伊藤さんの言葉にうなずきながら言った。
「運転手は黙って運転しないと。事故でもしたら大変だからね」
お兄ちゃんはそう言って笑った。
黙り込んだままで、変に思われるとマズいかなと思った由香は
「あ、この前は遠いところ送って頂いてありがとうございました」
と、居酒屋の帰りのお礼をお兄ちゃんに言った。
お兄ちゃんも、由香の気を遣った言葉に反応して
「いえいえ、女性を送るのは当然のことですからね。僕は紳士ですので」
と、戯けたように言った。
そのとき、由香はルームミラー越しにお兄ちゃんと目が合ってしまい、慌てて下を向いた。
それ以降、また由香とお兄ちゃんのあいだで、会話は途絶えてしまった。

由香は、その後ずっと、あの時、自分が座っていた、そして今は伊藤さんが座っているお兄ちゃんの車の助手席を、少し不思議な気持ちで後部座席から眺めていた。
 
車は山道を登り、広場に着いた。
「それじゃ、お昼にしようか」
そんな言葉が聞こえ、コンビニで買ったお弁当が、みんなに配られた。
「弁当とお茶は新井が買ってきてくれたので、それぞれ彼にお金を払って下さい」
伊藤さんの言葉を聞いて、みんな一人ずつお金を払いに行った。
しかし、由香は財布が鞄の奥に入り込んでしまって手間取り、最後の支払者になってしまった。
周りを見るとみんなすでに座ってお弁当を食べ始めていた。
「あの…いくらですか?」
由香がお兄ちゃんに声をかけると、彼は
「いいよ。おまえからお金をもらう気はないから」
と言って立ち去った。かと思うと引き返してきて
「その白々しい敬語はやめろよ。それと、この前のことは、お互い気にしないようにしよう…な」
と、少し笑顔を見せながら肩にポンと手を置いて行ってしまった。
その「気にしないように」という言葉をどう理解したらいいのか、由香はお弁当を食べながら、ずっと考えていた。
おまえから聞いた告白は、なかったことにしようということなのか、聞いたけど、今日は気にしないでおこう、ということなのか。
その後もずっとそのことを考えていた。だからお弁当を食べた後、何をして過ごした全く思い出せなかった。

覚えているのは、夕方近くになって、急に大雨が降ってきたこと。
早めに切り上げようということになり、みんな慌てて近くにあった車に乗った。行きとは違う車に乗った人も多く、由香も他の人の車に乗り込んだ。
結局、あれっきり彼と話しをすることはなかった。

ちょっと寂しいような、でもホッとしたようなそんなサークルの一日だった。



続きを読む >>


ランキングに参加しています。応援して頂けると嬉しいです。 にほんブログ村 写真ブログ 女性カメラマンへ にほんブログ村 写真ブログ 京都風景写真へ



| 2017.06.14 Wednesday |
| 1/1 |