昔、なおみちゃんという友達がいた。
なおみちゃんは私よりも2つか3つほど年下で本当に可愛い女の子だった。高校の頃はコンビニでバイトをし、高校卒業後は喫茶店でバイトをしていた。私が彼女と知り合ったのは彼女が喫茶店でバイトを始めた頃だった。
私は彼女がバイトするその喫茶店に時々車を走らせた。
坂の上にある洒落た喫茶店だったが、場所があまりよくなかったのか客はいつも少なかったので、店に行くとなおみちゃんはよく私が座るカウンター席の横に座って話を始めた。
癖なのか、彼女はコップに水滴がつくとすぐにそれをおしぼりで拭き取った。夏の暑い日、アイスコーヒーを注文すると数分もしないうちにコップに水滴がじわりじわりと現れる。現れたかと思うかどうかの間なしに彼女は水滴を拭き取る。いつもそうだった。
何度かそうやって水滴を拭き取ったと思うと「あのね…」と言ってなおみちゃんは口を開き始めるのだった。
当時、なおみちゃんには彼氏がいた。彼女より5つくらい年上の会社員で高校生の頃からつきあっていると言っていた。
出会ってからつきあうようになるまでの話、遊びに行った話、楽しかったこと、嬉しかったこと…それらを目をキラキラさせながら私に話してくれた。
なおみちゃんが彼氏の話をするときはいつも、駐車場に停めてある私の車を見ながら話すのだった。
何故なら、なおみちゃんの彼氏は私が当時乗っていたのと同じ白いレビンに乗っていた。
けど、ある日「彼氏が最近あまり会ってくれなくなったの」となおみちゃんは嘆いた。
あんなにいろんなところに行ったのに、あんなにいろんな話をしたのに、あんなに電話をしてくれたのに、いつからか電話をしても素っ気なくなり、あまり誘ってくれなくなり、会うことも少なくなったと私の隣に座ってため息をつくのだった。
私も同じような経験があったから、なおみちゃんの気持ちは痛いほど伝わってきた。でも私は何も助言出来なかった。
なおみちゃんの彼氏には一度か二度会ったくらいで、そんなに話をしたこともないのでいい加減なことは言わない方がいいだろうと思っていた。