居場所の少なかった私にも、たった一つだけ居心地のいい場所があった。
それは自分の家だった。
私は小さい頃から、自分の家が、親が、大好きだった。
そんなだから私は自分が不良で、学校で蓮っ葉な態度をとり、友達もいないということを親には知られたくはなかった。
母には、ぺったんこの鞄やかかとを踏んだ靴は誰でもやってることと納得させ、スカートはリウマチの悪化を避けるためと話した(これは事実だけど)。
出かけるときはスッピンで、外に出てからバスの中やトイレでメイクした。
母は中学の時に比べたら少し変わったという印象は持っただろうが、高校ではかなり目立つほどに悪い生徒になっているとは気づいていなかったと思う。
高校2年に入ってしばらくした頃、私は学校から歩いて10分ほどのところにあるカフェバーを見つけた。それは雑居ビルの2階にあって、あまり目立たないところだった。
見回りの教師が来てもそこまで上がってくることはなかったので、私はそこによく通った。
カフェバーで一人コーヒーを飲み、サービスで出してくれるポテトチップスを食べながらぼんやりする時間はそのときの私には必要な時間だった。
私は多分そこで高校で過ごした不良の自分をリセットしたかったのだと思う。
サラリーマンの男性が会社帰りに飲みに行くのは、ストレス解消もあるだろうが、あのときの私のように会社での自分をリセットして家に帰りたいという意味もあるのではないかと、私はあの頃からいつも思っていた。