雨の街角

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第五章 幸福 〜難しい論説〜

その日は1時間ほどかけて、渓谷に行った。車から降りた二人は、休息所の丸太の椅子に腰掛けた。
「海もいいけど、こういうところもいいね。そう言えば、始めの頃のサークルで一度山に行ったよね。キャンプ場みたいなところ」
「うん、行った、行った。あの時、おまえ俺にわざわざ敬語遣って、嫌な感じだったよな」
お兄ちゃんは、鼻の頭に皺を寄せながら言った。
「だって…ほら、あのサークルの前に私、お兄ちゃんに好きだって告白しちゃったでしょう?なのに、お兄ちゃんは何も返事してくれなかったし…恥ずかしいやら悲しいやら、いろんな感情が入り交じっていたから」
「そっか、悪かったな。でも俺も突然のことで、返事のしようがなかったんだよ。自分の気持ちも整理出来てなかったし」
「そうだよね。突然あんなこと言われても困るよね」

二人が話す周りから聞こえてくるのは、少し遠い場所にある川のせせらぎと、鳥の声だけだった。

「今日は白のブラウスと、黒のスカートか。前にも白と黒の服、着てたよね。白と黒が好きなの?」
木のベンチで隣に座ってるお兄ちゃんが、由香の服を見て言った。
「そうだった?」
「ほら、居酒屋に行った日も、白のワンピースで襟のところが黒のを着てたじゃないか」
「よく覚えてるなぁ。そういえば着てたね」
由香はうんうんとうなずきながら答えた。
「あの日、真っ黒に日焼けして入ってきた姿をよく覚えてるよ。日焼けのことを話そうと思ったら、おまえ、ずっと機嫌悪くてさ」
お兄ちゃんは苦笑いしながら言った。
「でも帰る頃には、いろんな話するようになってたじゃない。あの日は居酒屋に行く前、のんちゃんとテニスしてたから」
「そういえば、のんちゃんって伊藤の知り合いなんだよね?おまえとはどういう友達なの?」
「小学校の時の同級生なの。私は中学に上がる時に引っ越したから中学も高校も違うんだけどね。サークルも彼女から強引に誘われたんだけど、今じゃ入って良かったと思ってるよ。友達も出来たし、何よりお兄ちゃんと知り合えたし。でも私、あれから鈴木さんには嫌われちゃったみたい。口利いてもらえないよ」
「鈴木さんか。そういえば、俺にも口利いて来ないな」
「俺にもって、お兄ちゃんは当たり前でしょ。あんなこと言っちゃったんだし」
少しあきれた顔で言った由香にお兄ちゃんは問いかけた。
「彼女の家、すごく金持ちってホント?」
「画廊の娘さんなんだって。彼女にしておけば良かった?家はお金持ちだし、逆玉だったのに」
「あの子には興味ないよ、俺」
お兄ちゃんはそういって少しため息をついたあと、言葉を続けた。

「ずっと前、分かり合えても上手くいかないこともあるって言ってたよね?あれ、どういうこと?」
「例えば、私が寂しいとするでしょ?私と似ているお兄ちゃんは、きっとそれを察知する。察知してもその寂しさをどうにもしてやれない時、罪悪感を抱いたりするでしょう?でも、もし私の寂しさを察知していなかったら、そんなこと思わなくてもいいじゃない?上手く言えないけどそんな感じかな」
「分かったような、分からないような。でも、おまえすごいな」
「どうして?」
「俺なんて、おまえより2年も長く生きてるのに、そんなこと考えたこともなかったよ」
「お兄ちゃんは、私が白と黒の服が好きだって知ってるじゃない?それでいいんだよ」
「何、それ。もしかして俺、馬鹿にされてる?」
珍しく、お兄ちゃんがすねた顔で言った。
「違うって。多くを知りすぎない方がいいってこと。何も知らないのは悲しいけど、全てを知ってしまうと、それはそれで、どちらかが辛くなってしまうかもしれないってこと」
「おまえの論説は時々難しくなるな」

そんなことを言って二人は笑っていたけど、後でその通りの辛さを見ることになるなんて、そのときは知る術もなかった。



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| 2017.08.20 Sunday | ニタモノドウシ | comments(1) | - |
知恩寺と知恩院 3
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知恩院に到着。
この三門はいつ見ても圧巻です。
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| 2017.08.18 Friday | 京都・神戸 | comments(6) | - |
晴れの朝と雨の午後
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最近、関東では今月に入って毎日雨だというニュースを流してる。
でもこっちもそう。1日降ってる訳じゃないけど、朝は晴れているのに午後になると夕立のような雨。昨日もそうだった。ほぼ毎日。
朝はこんな感じで夏の空って感じだったのに…
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| 2017.08.16 Wednesday | 日々 | comments(4) | - |
第五章 幸福 〜名残惜しい唇〜

車を降り、お兄ちゃんに手を引かれて着いたところは、周りに工場ばかりが建ち並ぶ埋め立て地の埠頭だった。
「前に本を読みにバイクでよく海に来たって言ってただろ?あれがここ。俺の指定席」
お兄ちゃんは防波堤の壁を指さしながら、そう言って微笑んだ。 
しばらくのあいだ、二人は防波堤に腰掛けて波の音を聞いていた。その音は初めて行ったあの海の音とは、また違った音に聞こえた。
目を閉じて波の音を聞いている由香に
「はい」
と言って、お兄ちゃんが火のついた煙草を差し出した。
「何?」
と言いながら受け取ると、お兄ちゃんが言った。
「いつも車で火をつけて渡してくれるじゃない?いつか、俺が火をつけて渡してあげようと思ってたんだ」

二人でその煙草を交互に吸った。
それ以来、二人きりになるとよくそうした。共有している気分が心地よかった。
でも、別れ際近くになると、二人は一切煙草を吸わなかった。
約束してそうした訳じゃないけど『別れのキスが煙草臭いのは、嫌だよね』と以前話してからだったと思う。
そして由香は煙草臭くない別れのキスを毎回受けた。
名残惜しそうにしてくれる、あの唇の感触が大好きだった。

気がつくと、夏休みに入ってからかなりの日数が経っていた。
お兄ちゃんに会う時間とバイトの時間をはずしながら、由香は教習所へ通っていて、8月の終わり頃、やっと免許がとれた。その免許を手に早速お兄ちゃんに電話をした。
「お兄ちゃん?今日ね、免許とれたの。これで後期から学校に車で通えるよ」
「おまえ、電車とスクールバス苦手だって言ってたもんな。良かったじゃないか、おめでとう。じゃ、早速俺が運転見てやるよ」
「いいよ…もし事故でもして怪我させちゃ困るし」
由香は断ったけど、お兄ちゃんは
「怪我したら、おまえに一生面倒見てもらえるから一石二鳥でしょ?」
と、訳の分からないことを言った。
「嫌だよ。とにかく、私は運転しないからね」
「じゃ、いいよ。運転しなくていいから、出かけよう。今から迎えに行くよ」
そう言って電話は切れた。

迎えに来てくれた時、お兄ちゃんは由香の赤い軽自動車に気づいた。
「もしかしたら、あの赤い軽、おまえの?」
「そう。頑張ってバイトして、卒業までに普通車買うんだ」
そんな由香の言葉を聞かなかったかのように、お兄ちゃんは言った。
「気をつけよう、赤いミニカの683」
「何、それ?」
「俺だけの交通標語」
「つまらないこと言わないでよね」
由香がちょっとふくれて見せると、お兄ちゃんはそれを見て笑った。



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| 2017.08.15 Tuesday | ニタモノドウシ | comments(8) | - |
人生初のバイトは… 2
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コンパニオンのバイトは前述したように良いことばかりとはいかなかった。

一番困ったのは、お酒を呑まなければいけないこと。
私は酒が一滴も呑めない。下戸ってやつだ。パーティの時は勧められても呑んではいけないのだが、宴会の仕事の時は呑まなければいけない。いや、いけなくはないが勧められて呑まないと「客の酒が呑めないのか」と気分を害される。特に自分がチーフの時は「呑めません」なんて絶対に言えない。次から使ってもらえなくなる。
無理に呑んで気分が悪くなり、電柱にもたれかかっていたところを祇園の交番に保護されたということが2度ほどあった。
「お仕事とは言え、大変ですね。お酒、弱いんですか?」警官が聞いてきた。未成年のバイトとは見破られなかったということだろう(笑)
でもそのうちこれまたお客さんに「呑まなくても呑んだふりをする上手い方法」を教えてもらい、何とかごまかす術を得た。これも社会に出てから役に立った。

お酒が嫌いなのだから、作り方も全く分からなかった。
ワンフィンガーとツーフィンが−、ロックとストレートの違いも分からなかったし、もちろんハイボールも知らなかった。「ヘネシー、ツーフィンガーで」なんて言われてもちんぷんかんぷん。
その後、勉強して意味は分かったが、ワンフィンガーとツーフィンガーを目分量で量ることが出来ず、始めは本当に指1本や2本で量っていた。
ただ、匂いを嗅ぐだけで吐き気がしてくるほどの酒嫌いだったので、作り方が分かったとしても毎回馴れなくて困った。

逆に結構早々に馴れたのがハイヒールだった。
パーティでの接待はドレスや整列したときの印象を良くするため、全員の身長を175センチに合わせていた。私は163センチだったので10センチちょっとのヒールを履いていたが、すぐにロングドレスを着て楚々と歩けるようになった。
今でも15センチくらいのヒールを見るととても懐かしく思う。特に黒いの(笑)
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| 2017.08.13 Sunday | 昔の私、今の私 | comments(6) | - |
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